「教えるという事は、こちらが差し出したものが辛い義務ではなく貴重な贈り物だと感じられるようなものであるべきです。」ーアインシュタイン
「コーチング」という言葉は、スポーツの世界では当たり前のように聞く言葉です。特にスポーツの指導者は、コーチングをする人と言う意味で「コーチ」とも呼ばれます。コーチングとは、コミュニケーション技術のうちの一つで、自発的な行動(人から言われて行うのではなく、自分から行いたいと思って行動すること)を促し、目標達成や自己実現を助ける手法です。
このコーチングの技術がないと、本当の意味での指導というものはできませんし、子供たちの成長が遅くなります。
みなさんの部活動やクラブチームのコーチたちは、コーチングをされているでしょうか?
または学校の先生はどうでしょうか?コーチングが普通の指導とどこが違うのでしょうか?
スポーツの指導者でも学校や塾の先生でも、時には保護者の方々でも子供に関わる人であれば必ず物事を教える必要が出てきます。ボールはこうやって投げるとうまくいくよ、likeと言う英単語は「好き」という意味です、や”しつけ”もそうでしょう。これは知識の伝達です。知っているか知らないかの話で、こういった暗記レベルでの知識を伝えることを「ティーチング」(=教えること)と言います。
ティーチングでは一方的に指導者から子供たちへの伝達なので、コミュニケーションではありません。そしてこのティーチングには限界があるのにもかかわらず、多くの指導者がティーチングばかりしているという点が問題なのです。
この記事のトップ画像がその理由の一つです。これはコミュニケーションにおけるメタモデルと言います。言葉はどうでもいいのですが、ティーチングでは指導者の意図するものが全て伝わらないという事です。例えば、下の言葉を聞いてどう感じるでしょうか?
「私が人生で最も興奮した瞬間の一つに、スペインのバルセロナへ行って現地でサッカーの試合を観戦したというものがあります。約10万人収容のスタジアムが満席でものすごい盛り上がり、目の前でメッシがフリーキックを決めた瞬間の歓声は日本では経験したことのないものでした。」
いかがでしょうか?これは私自身の実話で、この文章を書いている間にもあの興奮がよみがえってきて幸せな気持ちになっているのですが(笑)、みなさんも同じ気持ちになっているでしょうか?恐らくなっていないでしょう。この気持ちが100%分かる人は、同じくスペインで試合を見たバルセロナファンの人だけだと思います。
少し話がそれましたが、この記事の写真が示しているのはこういう事です。人は外の世界から情報を受け取ります。主に五感を使って相手の言葉や出来事を見たり聞いたり感じたりします。人間の脳はその受け取った情報を、記憶したり理解するために自分の価値観や考え方と照らし合わせて無意識に省略したり、捻じ曲げたり、一般化して処理しています。
例えば初めて私が韓国へ行った時、向こうの空港でどのゲートに行けばよいか空港スタッフに尋ねたとき、無視をされた経験があります。その当時の私はその出来事から、「韓国人は冷たいな」と、一人の情報を韓国人一般の評価に捻じ曲げて捉えていました。このようなことは、人それぞれ情報が入るたびに自然に起こっているのです。
そうして伝わった情報に反応して行動を取ります。なのでティーチングばかりしている人は、その指導者が伝えたいと思っていることや真意がちゃんと指導者の意のままに子供たちには伝わりません。だから、「なぜ同じミスをするんだ!」「ちゃんと言ったのに・伝えたのに」という事が起こってしまうのです。
また言葉には自然とその人の価値観や信念と言ったものが乗っかります。同じ言葉でも、例えば一番最初のアインシュタインの名言も、彼が言うのと私が言うのでは、その言葉の重みや思いなど、違う感じがするはずです。そういう言葉にならない領域、そういったものは言葉で聞いても分からない、理解ができない。実際に体験・経験しないと分からないのです!
塾の先生をしていた時代、もう私はすでに経験をしているからこそ早くから勉強を始めようといつも子供たちに言っていました。しかしどれだけ言っても毎年勉強開始が遅い生徒がたくさんいました。まだ受験を経験していないから、その試験日までの残り時間の間隔や、落ちてしまった時の後悔、試験に近づくにつれて出てくる焦りなどわ分かるはずがないのです。そうして受験が終わった後になってやっぱりもっと早くから勉強をすればよかったと口をそろえて言うのです。
このように、実際に経験することで「自分の中から出てきた考えや理解、感情等」はその人のものなので、納得して指導者の意図したものに近い状態で伝えることができます。
少し複雑になってしまいましたが、教えるだけでは伝わらないものがあるという事です。そしてそれは経験をさせたり質問をしたりすることで、子供たちの中から出てくる感情や考え方でないと、本当には伝わらないのです。
教えるだけではなく、相手の中から引き出す。これがコーチングです。どう経験させるか、どう質問するかで相手の答えが決まってしまうので、ここが難しいところになります。
だからこそ多くの指導者が子供たちの理解を待てずにすべてを言葉で教えようとしすぎてしまうのです。単純な知識でさえ、例えば冒頭のlike等の英単語の意味レベルの知識でさえ、教わるより自分で辞書等で調べて自ら得させるようにしたほうが定着率も上がるのです。しかし受験勉強ではいちいち全て調べている時間がないから、、、という事なのです。
子供たちの中から出てくる言葉を増やし、子供たちの中にそうした自分だけの財産を多く残してあげることで、それは彼らの将来にも影響を与えられます。また自分で得た確実な知識がなければ、行動力が伴わないことも現実です。知識偏重の教育業界だからこそ、今の日本にはコーチングのアプローチがより求められるのではないでしょうか。
恐らく私がこうして言葉で伝えるだけでは、みなさんに意図していることが伝わり切っていないのだという事も分かっています(笑)。なので是非、一度個別セッションや「スポーツマンシップラーニングセンター」で経験してみて下さい!一生モノの知識と経験を一緒に増やしていきましょう!
プジョル